ジョン・エヴァレット・ミレイ  (1851-52年制作 テート・ギャラリー)
オフィーリア
ミレイ 「オフィーリア」全体
ミレイの最も有名な絵であるだけく、「ラファエル前派」を代表する作品でもある「オフォーリア」。
オフィーリアは、シェイクスピアの戯曲『ハムレット』に登場する悲劇のヒロイン。狂気を装うハムレットに捨てられ、父親を殺されたオフィーリアは悲嘆のあまり気が狂い、川に落ちて死んでしまいます。舞台ではこのオフィーリアの死のシーンはなく、王妃ガートルードのセリフの中で語られるのみですが、19世紀にはオフィーリアは美術作品の題材として人気があり、数々の画家たちが想像力を駆使して魅力的な作品を描きました。
 あまりに写実的で緻密な自然描写が見事ですが、ミレイはこの作品を描くに当たって、1851年7月から11月ににかけて、ロンドンの南西のサリー州ユーウェルという町に滞在し、ボックズミル川沿いで朝から日没まで写生をしたそうです。数ヶ月に渡って写生をしたために、絵の中には異なる季節の花が混在しているとか。そのひとつひとつの植物にはそれぞれ意味が込められていて、オフィーリアの人格や運命を象徴しています。

 この絵は最初に背景が描かれ、後にアトリエで人物が加えられたそうですが、オフィーリアのモデルとなったのは、エリザベス・シダルという女性。帽子店で働いている時に画家ウォルター・デヴァレルに見い出されてモデルを務めるようになったそうですが、病弱そうなはかなげな雰囲気からラファエル前派の画家たちのミューズ的な存在だったそうです。

 この「オフィーリア」のモデルをした時は真冬でしたが、お湯がたっぷり入った浴槽で長時間ポーズを取らされたそうです。制作に熱中したミレイは浴槽の下のお湯を温めるランプが途中で消えたことに気がつかず、そのままポーズを取り続けたエリザベスはひどい風邪をひいてしまったとか。
 絵に込められた花言葉

@スミレ:誠実・純潔・若い死
Aケシ:死
Bヒナギク:無邪気
Cナデシコの一種:悲しみ
Dパンジー:物思い・かなわぬ愛


E柳:見捨てられた愛、愛の悲しみ
Fノバラ:喜びと苦悩
Gミソハギ:純真な愛情・愛の悲しみ


H忘れな草:私を忘れないで
Iキンポウゲ科の花:子どもらしさ
Jバラ :愛

 彼女はその後、ラファエル前派のロセッティの専属モデルとなり、彼と結婚。ロセッティの手ほどきで自ら絵画や詩の制作もしたそうですが、33歳で他界してしまったそうです。


 ミレイの「オフィーリア」は、明治期の日本の作家や画家にも影響を与えたことにも注目です。
 まず、ロンドンに留学中だった文豪・夏目漱石はミレイの「オフィーリア」を見て感銘を受けたようで、小説『草枕』の中で温泉宿に逗留中の主人公の画家の言葉をかりてこの作品について述べています。
 また、日本画家の鏑木清方は、『金色夜叉』で貫一が夢に見るお宮の死の場面を描くのに、ミレイのこの作品を参考にしたそうです。

他の画家の描いた「オフィーリア」
「オフィーリア」を描いた作品はたくさんあり、どれも素晴らしいですが、その中から2人の画家の作品をピックアップしました。
ウォーターハウスの「オフィーリア」 ウォーターハウスの「オフィーリア」
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス/古代神話や中世小説などの魔性の女や悲劇のヒロインを描いて世紀末の人気画家。ウォーターハウスの描くオフィーリアは、生身の人間らしい魅力的な美女。
ヒューズの「オフォーリア」
アーサー・ヒューズ/幻想文学の挿絵画家としても活躍したヒューズは、オフィーリアを妖精のよううな姿に描いた。この作品は、ミレイの「オフィーリア」が発表された1852年のロイヤル・アカデミーの展覧会に偶然にも同時に出品されていたもの。