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近代日本画の巨匠・横山大観(1868~1958)の没後50年を記念した展覧会が国立新美術館で開催されました。
貴重な海外からの里帰り作品なども含め、初期から晩年までの代表作が集められ、見応えのある作品がずらりと展示されました。その作品はいずれも完成度が高く、芸術性に優れたものばかりです。
実際に展覧会を鑑賞して特に気になった作品や音声ガイドから興味深いエピソードなどを紹介したいと思います。
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新たなる伝説へ |
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見応えのある作品がずらりですが、まず最初に注目したのは、東京美術学校の卒業制作として描いたという「村童観猿翁」でした。
恩師である岡倉天心を牛の上で踊る猿に見立てて、その周囲を取り巻く子供たちは同級生11人の若い頃を想像したものだとか。そんなアイデアを知って画を見ると、さらに興味深さの増す作品です。
また、大観は実技の成績が良く、卒業制作の出来が良ければ東京美術学校の助教授にしてくれると言われ、張り切って制作したとか。出来栄えとしては十分だったものの、残念ながら学課の成績が良くなかったため、すぐには助教授にはなれなかったそうです
(笑)。
そのほか、初期の作品では大観の代表作の一つ「屈原」が堂々と展示されていました。大観というと山水系の風景画がメインですが、歴史上の人物を堂々と描いた大変存在感のある作品でした。前期の展示は「屈原」に代わって「無我」だったようです。
大観というと、富士山を題材にしたものなど風景画のイメージが強いですが、初期の作品は人や歴史、宗教的なものの比率が高いような気がしました。他に今回気になった作品は、キリスト、孔子、仏陀、老子が迷子の子どもを見守っているという「迷児」など。それから、「ボストン美術館の里帰り作品の展示もありました。大観は菱田春草とともに画の研究のために渡米した際にこれら描き、向こうでの展覧会に出品したそうです。展示されていた「海図」「月夜の波図」「金魚図」などは全体にぼかしのきいたタッチでしたが、日本では不評だった「朦朧体」と言われる技法もアメリカでは評判を呼んだとか。
また、大観は旅行好きでアメリカのほかヨーロッパなどにも旅したそうで、トランクや旅行グッズが展示されていました。イタリアで開催された展覧会も夫人とともに遥々出かけていったそうですが、この時に静子夫人が着用した着物が展示されていました。深い紫地の裾に大胆な大観の絵があしらわれたものですが、シンプルさの中に粋を感じさせる芸術家ならではの一品でした。
続いては、この展覧会の一番の目玉である「生々流転」の展示です。この作品については別枠で詳しく紹介していますが、40mもの作品のどこにも手抜きがなく、大胆かつ緻密な大観の世界がいかんなく発揮されています。作品の反対側の壁には「生々流転」の見取り図のパネルが展示されていましたが、それを参考にすると40mの絵巻を興味深く鑑賞することができます。
大観は絵巻を好んで描いたようで、今回の展覧会に展示された「四時山水」もまた素晴らしい作品でした。この作品は大観が80歳近くに描いたもので、こちらは水墨画ではなく色つきの風景画絵巻です。富士山の日の出から始まり、四季の移ろいが見事に描かれています。
展示後半の昭和期の作品はまた傑作揃い。シリーズものもいくつか展示されていましたが、「瀟湘八景」の「漁村返照」や「平沙落雁」は素晴らしい水墨画でした。前期に展示されてみれなかった4作品もぜひ見てみたいです。そして、「海に因む十題」の4作品がまた見応えがありました。「海潮四題」の春・夏・冬が展示されていましたが、見入ってしまうほどの素晴らしい出来栄えです。「山に因む十題」より「龍踊る」「雨繁る」の2作品も展示されていました。この2つのシリーズは合わせて「海山十題」と呼ばれ、大観の代表作の一つです。
そのほかでは二幅の掛軸「飛泉」、「霊峰十趣・夜」「霊峰飛鶴」など大観ならではの格調の高い風景画がずらり。どれも本当になんともいえない素晴らしい描写で、絵の前に立つと「すばらしい、、!」とつい独り言を言ってしまうほど。そして、もう一度見たくなって何度も後戻りしてしまいした。
また、六曲一双の屏風画も数多く展示されていました。展覧会チラシに使用されている「秋色」は大観らしい鮮やかな緑と金色のコントラストがとてもインパクトある作品ですが、大観がこの作品を描くのに影響を受けたと思われる尾形光琳の「槇楓図屏風」も参考出品されていました。
そのほか、前期・後期で展示替えがあったの
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2008年1月23日~3月3日 国立新美術館 |
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生々流転 |
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「生々流転」は全長40mにも及ぶ大作で、大観の代表作の一つとされています。大観55歳の時の作品です。
「生々流転」とは、万物が移り変わって変化し続けること。山奥の霧が葉の露となって流れ落ち、やがて渓流から大河となり、最後は海に注ぎ込み、竜になって天に昇るという「水の一生」を大観は一枚の水墨画の絵巻に仕上げました。
大観は普段は下絵をほとんど描かないで制作をしていたそうですが、「生々流転」に
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限っては下絵や習作が残されているそうで、この作品に賭けた大観の意気込みが感じられます。また、制作を始めてから墨のにじみ方が気に入らず、絹地に描き直したそうです。
ありのままの自然を大胆な構図の中に緻密に描いていますが、所々に人間や動物を登場させることで、現世界としてのリアリルティを際立たせ、人間の営みの場としての自然の姿を見事に描き出しています。大胆で力強い筆使いとぼかしが上手くかみあって、大観ならではの幻想の世界を描き出しています。
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「生々流転」のクリアファイル |
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で、後期で見学できたのは「柳陰」「五柳先生」「雲去来」「群青富士」「龍蚊躍四溟」などでした。前期に展示された「紅葉」「夜桜」は大観の代表作の中でも華やかなものなので、見れなくて残念でしたが、いつか機会があればぜひ鑑賞したいと思います。
また、今回の音声ガイドでは大観の生の歌声が聴けました。横山大観が歌う日本美術院院歌「谷中鶯(やなかうぐいす)」(岡倉天心作)というです。酒の酔いで即興的に作られたものだそうで、大観が自己流で作曲し
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て宴席でのお家芸にしていたとのことです。生の声はちょっと感激でした!
横山大観は近代画壇の中で巨匠と呼ばれるだけあって見応えのある傑作がずらりですが、生で鑑賞するとその高い完成度と芸術性を実感することができます。また、富士山など日本の自然の風景を題材にしていても、そのスケールの大きさから日本の枠を越えて中国の山水を連想してしまうのは私だけではないのではないでしょうか。
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