ヴェドゥータ
「ヴェドゥータ」と呼ばれる都市景観画は、当時の観光旅行ブームの影響もあり、18世紀のヴェネツィアで大いに流行しました。
 眼前の風景をできるだけ忠実にパノラマ風に描き、光や大気の効果を巧みに表現した絵画です。この風景画の起源はローマですが、写真や絵葉書のない時代、人々は旅の思い出に絵を買い求めたのでした。

 
今回の展示会には、他にもガブリエル・ベッラ作のヴェドゥータが10点出品されていました。当時のお祭りや婚礼、テニスやサッカーなどの様子が伺える貴重な絵画です。
展示会チラシ ヴェネツィア絵画のきらめき〜 栄光のルネサンスから華麗なる18世紀 〜

 その美しさで「アドリア海の真珠」と呼ばれるベネツィアは、7世紀から18世紀まで共和国として存続し、東方交易の要として経済的繁栄を謳歌しながら「芸術の都」としても名を馳せてきました。多くの人を魅了するイタリアの中でも、ヴェネツィアはその歴史や地理から独自性を持った街―。そんな街から生まれたヴェネツィア派の絵画もまた独自の光を放っています。
 今回の展示会ではヴェネツィア派の巨匠と呼ばれるベッリーニやティツィアーノ、ティントレットなどの宗教画や神話を題材にした作品からヴェドゥータ(都市景観画)まで71点の様々な作品が出品されました。その中から注目した作品をご紹介します。

2007年9月 2日〜10月25日
渋谷・Bunkamuraザ・ミュージアム

そのほか豊田・静岡・大分・鳥取で開催)

「聖母子と洗礼者ヨハネ」
ジョバンニ・ベッリーニと工房 
1500年頃/ドーリア・パンフィーリ美術館

 ベネツィア絵画の初期の巨匠ジョバンニ・ベッリーニは、1483年にヴェネツィア共和国の公式画家となり、その後のヴェネツィア派を担うジョルジョーネやティツィアーノといった画家を弟子とし、大規模な工房を経営していました。聖母子像は当時、キリスト教世界で最も好まれた絵画の題材の一つで、ベッリーニも多くの聖母子像を描いています。
 最近修復がなされたそうで、絵画全体の光り輝くような色彩が印象的な一枚です。そして、外界と洗濯物のような布で仕切った構図珍しく、聖母子を扱った画にしては庶民的で新鮮。



洗礼者ヨハネの首をもつサロメ

「洗礼者聖ヨハネの首をもつサロメ」
ティツィアーノ・ヴェチェリオ
1515年頃/ドーリア・パンフィーリ美術館蔵

ヴェネツィア絵画を代表する画家の一人・ティツィアーノが「サロメ伝説」を描いた作品。
 サロメは1世紀頃に古代パレスチナに実在したとされ、イエスに洗礼を授けた洗礼者ヨハネの首を求めた人物として古くから名が知られ、その異常性などから多くの芸術作品のモティーフとなってきた女性。「サロメ」にしては女性は少女のように優美に描かれていますが、皿の上に乗せた生首のイエスは怖いほどのリアリティにあふれています。


「愛の始まりの寓意」
ヤコポ・ティントレット
1562年/アンティキタ・ピエトロ・スカルパ蔵

16世紀後半のヴェネツィア絵画を代表する巨匠ティントレットは、バロックを先取りする躍動感とドラマチックな構図を特徴とする画家。
 この作品は、マルチャーナ図書館の控えの間と図書館を結ぶ通路の扉の上に飾られていたとされていますが、アポロンが掲げたガラスの皿に太陽が灯をともす瞬間を愛の始まりになぞらえたもの。大画面に黄金色の色彩で堂々と描かれ、イタリアルネサンスの香りを十分漂わせた見事な作品です。

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聖母子と聖ヨセフを礼拝する聖女テレサと聖ペテロ、聖女ウルスラ、司教

「聖母子と聖ヨセフを礼拝する聖女テレサと
聖ペテロ、聖女ウルスラ、司教」

ジャンバッティスタ・ピットーニ
個人蔵・プレーシャ

この展示会では 「信仰と神話」をテーマとした作品が数多く展示されましたが、特にこの画は宗教画らしい厳しさよりも人間らしい温かみを感じ、つい見とれてしまった作品。登場人物が豪華ですが、一人ひとりが意味を持った動作をしていて興味深く、全体の構図も素晴しい。

※天に描かれているのが聖母子と聖ヨセフ。地上の方に描かれているのは、胸に矢が刺さっている女性が聖女ウルスラ、修道女の姿をしてるのが聖女テレサ、手に鍵を持ってる男性が聖ペテロ。


「統領ジョヴァンニ・コルナーロ1世の肖像」
セバスティアーノ・リッチ
1715年/ 個人蔵

会場の中央付近に堂々と展示されていた3人の人物は、ヴェネツィアの名門コルナーロ家出身の統領(ドージェ)たち。
 共和制を取ったヴェネツィアでは、公正な選挙で貴族から統領を選びました。権力が集中しないようにその権限は厳しく規定され、統領は象徴的な面もあったようですが、その権威を示す絵画は縦3m近くもあり、見るものを圧倒する堂々としたもの。
 絵画の男性のかぶる低い烏帽子のような帽子は、統領のシンボルである「コルノ」。絵画としても、カーテンや衣服の燃えるように鮮やかな色彩はベネツィア絵画の特徴をよく表しています。



統領ジョヴァンニ・コルナーロ1世の肖像



「リドット」 (賭博場)

「リドット(賭博場)」
ピエトロ・ロンギ
1757-60年?/ クエリーニ・スタンパリア美術館

18世紀に活躍したロンギは、この都市に住む人々の風俗や仮面舞踏会など貴族階級の日常生活を優雅に描き出し、ヴェネツィア派最後の巨匠と言われる画家です。今回はこのほか「ライオンの見世物小屋」など合計4点の展示。
 絵の中央では仮面をつけた男女が恋の駆け引きの最中、右奥ではカードゲームのいかさまで議論が白熱、左奥の仮面をつけた女性2人も身体をくねらせてアピール中、、、と様々な様子が描かれています。ロンギの死後、1797年にヴェネツィアはナポレオン軍の侵入を受け、ロンギの好んで描いた華やかな娯楽もしばらく途絶えてしまったそうです。


「パラッツォ・ドゥカーレに入るフランス大使ジェルジ伯、1726年11月4日」(部分)
ジュゼッペ・ベルナルディーノ・ビゾン  /1800年ごろ/個人蔵

「パラッツォ・ドゥカーレに入るフランス大使ジェルジ伯、1726年11月4日」
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展示会を代表する作品として、会場の入口を入った正面に展示されていたヴェドゥータ(都市景観画)。
 大きなキャンバスに堂々とドゥカーレ宮殿が描かれ、空間の広がりを感じさせる構図の中に多くの人々が詳細に描かれていているのにはちょっとした驚きがある。宮殿のバルコニーから見学する人の小さな描写についじっと見入ってしまった。
 ヴェネツェアの幻想的な美しさと繁栄ぶりがよく表現されているが、近くで詳細を見るのと、遠くから全体を見るのとでも味わいが違う作品。



「サン・ジョルジョ・マジョーレ島と税関」

「サン・ジョルジョ・マジョーレ島と税関」 (部分)
カナレット 
1728年 個人蔵・ニューヨーク

ヴェネツィアの都市景観画の第一人者とされるカナレットの絵画は、写真のように写実的で繊細な描写が特徴ですが、ほとんどの作品はカメラ・オスクーラという写生用の光学装置を使って下書きされたものだとか。
 今回、上のビゾン作「パラッツォ・ドゥカーレに入る〜」と同じ構図のカナレットの作も出品されていましたが、彼の作品は絵画全体から美しい静けさを感じられます。


「サン・マルコ広場」
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「サン・マルコ広場」 
(部分)
ベルナルド・ベロット
1747年以前/個人蔵・ミラノ

ベロットはカナレットの甥で、ヴェドゥータの後継者とされている画家です。半分以上を空が占め、カナレットよりさらに広い空間構成と硬質な描写が特徴です。ヴェネツィアの日常を静かなタッチで格調高く表現しています。