中国の陶俑 

漢の加彩と唐三彩

出光美術館にて8月の初めから開催されていた「中国の陶俑」に駆け込みで行ってきました。出光美術館で開催される展覧会は日本美術系の渋めのものが多いですが、今回の「陶俑」は全く知らなかったジャンルでした。「陶俑」とう言葉自体もも聞いたことがなかったのですが、古き漢時代からの中国の伝統的な風習を新たに知るとともに、歴史的価値をもった芸術作品を満足いくまで鑑賞することができました。

展覧会は下記のような4部構成になっていました。
 1 際だつ個性ー漢時代の陶俑
 2 苛烈な時代の形象ー南北~隋時代の陶俑
   
※洗練されたやきものー俑の周辺の副葬器物
 3 写実的形象ー唐時代の人物俑
 4 シルクロード交流の記憶ー唐時代の駱駝・馬
 5 洗練されたやきもの ―俑の周辺の副葬器物

 

際だつ個性ー漢時代の陶俑
「緑釉楼閣」 「灰陶加彩騎馬人物」

まず第1章は、「陶俑」とは何ぞやということを学びながら、初期の作品を鑑賞していきます。
 中国では、戦国時代の紀元前5世紀頃から、それまで主人とともに殉葬されていた生身の人間や高価な道具に代えて、陶器や木製品で副葬品を作るようになりました。それらは「俑」と呼ばれ、家屋や調度・什器、従者や家族などが精巧に形づくられました。これらは神殿や墓に供えるために作られた「明器」で、支配層の人たちのために生前より用意されました。
 それらは実用には適さないものでしたが、造形美に優れ、芸術品としても価値のある品々でした。また、当時の死生観では、死者も生前と同じように暮らしをするとされていたため、当時の暮らしぶりをよく表現し、歴史的な資料としても大変価値のあるものです。

まず、最初に会場に入ると、高さ150cmもある「緑釉楼閣」が目に飛び込んできました。ちょっと薄暗い会場にあって幻想的な佇まいで、これを見ただけで「おぉ!」という感動を覚え、この展覧会に来て正解だったと直感しました。

 「陶俑」の風習が開花したのは、漢時代の紀元前2世紀頃で、前漢時代のものは少し造詣がのっそりしていて素朴なものが多く、、後漢時代には生活に密着したものが多く作られるようになったという特徴があるそうです。
 後漢時代に作られた「灰陶加彩貼花人物禽獣文器台」は半円形の器に動物や人間が貼り付けられている珍しい造詣で目を引きました。画像がないので、説明しきれないのが残念・・・。

灰陶加彩騎馬人物 (前漢)
 緑釉楼閣 (後漢)

当時の豪族の館の角にあった望楼を兼ねた塔を形づくったもの。高さ150cmと、副葬品としてはかなりの大きさで迫力があります。間近で見ると、塔の各階に弓をつがえた兵士や鳥などがこちらを覗いています。見張りをしている兵士は、弓の形が楽器に見えて楽士さんかと思ったぐらいの平和的な雰囲気でした。また、塔はまっすぐなんだか、ちょっと傾いているかの微妙な精巧度で、そこがまた素朴なかんじを醸し出していて、見飽きなかったです。


   洗練されたやきもの ―俑の周辺の副葬器物

このコーナーでは様々な壺がメインで展示されていましたが、特に関心を持ったのが、三体展示されていた「神将像」でした。筋骨隆々として、多彩な飾りのついた甲冑をつけ、勇ましい形相をしています。解説では「四天王に通じる形象」だと記されていましたが、ちょうど日本の「仁王様」のようなイメージです。
 「陶俑」は、死者が死後も現世の生活と同じ生活を送れるようにという趣旨に沿ったものですので、原則的に不気味な鬼神や怨霊などと無縁な現世的なものが作られました。しかし、例外的だったのがこの「神将像」で、墓の中に邪気が入り込むことを防ぐための副葬品として墓道に据えられたそうです。唐時代の7世紀後半から作られたそうですが、その精巧な造形美には驚くばかりです。 

苛酷な時代の形象  ―南北朝~隋時代の陶俑

 漢の滅亡(220年)から三国時代や五胡十六国時代などを経て隋の統一(581年)までの間は、分裂と戦乱の時代でした。贅沢な副葬品を大量に準備する経済的な余裕がなく、この期間に作られた「陶俑」は小型なものが主流になります。その中で、比較的大きな墳墓が作られ、陶俑の制作が活発だったのは、北魏の支配にあった華北地方だったとか。

 下の画像のような駱駝俑は西域との交流を感じさせる南北朝時代から見られるようになり、隋・唐時代に盛んに作られるようになったとか。駱駝の形をしたものは、特に造形美が際立っており、展示品の中でも目を引きました。

「褐釉駱駝俑」
 
褐釉駱駝俑  (隋代)
写実的形象  ―唐時代の人物俑
「灰陶楽人」
灰陶楽人 (唐代)

「藍釉男子 一対」
藍釉男子 一対 (唐代)
灰陶加彩楽人 6体

 そして、いよいよ陶俑の全盛期にあたる唐の時代です。
 唐時代は絵画でも優れた写実の時代でしたが、陶俑もより写実的で精巧な作品が作られました。7~8世紀は白・緑・褐色を中心とする鉛釉を流しかける唐三彩の全盛期でした。顔だけに釉薬をかけないで焼き上げた後に加彩したり、素焼きして全身に加彩したりといろいろ工夫がなされました。精巧でリアルながらも、素朴感が残っているのがこの時代の陶俑の特徴です。

 展示品の数からも、この時代には人物をかたどった陶俑が充実していたようですが、女性は身分の高そうな貴婦人か、楽器を手にした楽人だったそうで、前者がふくよかなシルエットなのに対して、後者はスマートでシャープなシルエットなのが特徴になっています。男性の方は、まじめな雰囲気の官人(役人)やちょっと個性的な髭を蓄えた胡人などが多いようです。
 保存状態が良いものも多く、人物の表情まではっきり観察することができます。また、それぞれの装束などから当時の人々の装いなどを知ることができ、歴史的な価値の高い貴重な品々です。

灰陶加彩楽人 6体 (唐代)
白釉牛・灰陶加彩牛車
白釉牛・灰陶加彩牛車 (唐代)
シルクロード交流の記憶ー唐時代の駱駝・馬

 今回の展覧会で最も印象に残ったのは、このコーナーです。大きくて堂々とした駱駝や馬の焼き物の素晴らしさに惚れ惚れとしてしまいました。

 唐時代は陶磁器の技術も進歩して唐三彩を中心に多彩な焼物が作られた時代ですが、西域との交易が盛んになった時代を反映して、シルクロードを連想させる優れた作品が数多く作られました。こういった異国情緒あふれる作品を見ていると、戦乱の世から統一を経て平和を獲得し、国際色豊かな文化の繁栄を実現していたことが実感されます。三彩の色彩感覚は西方からの影響を受けて、それまでの陶俑より色鮮やかで華やかなものになっています。

 コーナーの最初の方に3体の「三彩駱駝」が展示されていましたが、写真左の白い駱駝が私が一番気にいったものです。首を後ろにそらしながら、いななくようなポーズに躍動感を感じました。また、鞍についているお面のような装飾物が気になりました。実用的な用途もありそうで、水筒?入れ物?かなと思いましたが、魔除け的なデザインがとても印象的です。いつかまたどこかの展覧会でぜひ再会したいものだと思いました。
 駱駝の他に展示されていた「三彩馬」も見事でした。駱駝や馬の特徴をよくとらえ、生き生きと魅力的に再現されています。
 「三彩駱駝人物」に騎乗している胡人はシルクロードの交易で活躍したソグド人だと思われます。このほかに9体並べて展示されていた「三彩騎馬人物」では婦人が騎乗したものが数点ありました。女性が馬に乗る姿は珍しいですが、北方民族から伝わったという乗馬に適したズボンを着用していました。様々な当時の風俗を垣間見ることができ、興味深くこのコーナーを鑑賞しました。

「三彩馬」 

「三彩馬」 (唐代)



「三彩駱駝」
「三彩駱駝」 (唐代)
「三彩駱駝人物」

「三彩駱駝人物」  (唐代)

※2つの三彩駱駝は高さ80cm前後。
  左上の「三彩馬」は52cm。

 


洗練されたやきもの ―俑の周辺の副葬器物
「緑褐釉獣首飾八角杯」

緑褐釉獣首飾八角杯 (唐代) 
「三彩貼花騎馬人物文水注」

最後のコーナーでは多彩な陶磁器が数多く展示されていました。出品リストをみても、万年壺、鍑、三足盤、水注、長頸瓶、龍耳瓶、双耳壺、奩、盒など様々な名前のついた形状の陶磁器が並んでいました。難しくて読めないものがたくさん、、、!どれもみんな個性的なシルエットで、取っ手や注ぎ口が龍の形になっているなど装飾的で凝った造詣になっています。
 また、全体的に丸みを帯びた形のものが多く、ゆったりと平和的なイメージのものが多かったです。三彩の特徴をいかした色彩もその器ごとに味わいがあって素敵でした。

三彩貼花騎馬人物文水注 (唐代)→

※鑑賞日:9月4日/公開更新日:9月9日~11日