祝祭の衣装展

ロココ時代のフランス宮廷を中心に

 王妃マリー・アントワネットたちが華やかな装いを競ったロココ・スタイルからナポレオン1世の時代のエンパイア・スタイルまで―。
31点の宮廷ドレスを中心に、コルセットや扇などの小物などが展示されました。
 イメージとしては知っていましたが、会場の展示解説を読むと興味深いことばかり。そして、実際の展を見るとそれはさらに驚きへと変わりました。華麗にこってりのフランス宮廷文化って浮世離れしていて、つっこみどころ満載ですね!
会場展示風景
 写真@
 
  ロココ時代の典型的なドレス
    「ローヴ・ア・ラ・フランセーズ


 解説パネルを一通り読んで、ある程度の知識を学んだ上で、会場に入ってみると、そこにはロココ時代の優雅なドレスを着たマネキンがずらり。
 羽織るガウン状になっている上下ひと続きののドレスを「ローヴ」というそうですが、展示されていた女性のドレスのほとんどは、「ローヴ・ア・ラ・フランセーズ」というタイプのものでした。ローブ・ギャラントという背中にプリーツをたたんだ裾広がりのドレスを盛装用に発展させたものだそうですが、ロココ時代の典型的なドレスだそうです。
 ドレスの胸の部分に逆三角形の布をあてたデザインが特徴で、スカート(ペチコート)は横に広がりのあるシルエットのとなっていて、パニエという補正下着を合わせて着用していたそうです。当時は細いウエストがもてはやされたそうで、コルセットを使って細さを強調しました。展示されていたドレスは軒並み小さめで小柄で華奢な女性のものが多いのにちょっとおどろきました。さぞかしこれらのドレスは重かったのでは・・・!

 また、男性の衣装は、ほとんどが「アビ・ア・ラ・フランセーズ」と呼ばれるタイプのものでした。女性のドレスに比べると印象が地味なのは仕方ないですが、男性で気になったのは髪型です。頭の左右にカーラー3つずつ付けたようなスタイルで、じっくり見ると、ホントに現代では考えられない髪型だな〜と思いました。



★想像以上に奇抜な髪型にびっくり

 今回の展示で一番インパクトが強かったのが、女性の髪型です。ハンパじゃなくすごかった、、、! ドレスだけではなく 髪型にも流行があったようです。ルイ15世時代にはポンパドゥール夫人やデュ・バリー夫人のヘアメイクを担当したル・グロというヘアアーチストがいて、300種もの髪型を考案したそうです。彼はただの髪結いではなく、パリのヴァンドーム広場で100体の人形を使って髪形の展示を行なったり、マニュアル本の制作やアカデミーを開校して結髪師の養成なども行なったのだとか。
 そして、ルイ16世時代には王妃マリー・アントワネットがファッションリーダーとなり新しいモードを次々生み出していましたが、髪型もどんどんゴージャスに奇抜になっていきました。前髪を高く結い上げ、土台を入れるなどしてどんどん巨大化していったそうです。
 解説を読んだ時にはピンとこなかったのですが、実物 (写真ABC)を見てびっくりでした。信じられない!という驚き全快で、ずっと凝視してしまいました (笑)。
なかでも写真Dは注目です。なんと頭の上に軍艦の模型が載っているのです! 実際に英仏の戦争で活躍した軍艦の模型なのだそうですが、牧場や庭園などその時に話題になっているものを飾りとして頭に載せていたとか。趣味がいいのか微妙な、ちょっと驚くべきモードです!

 
髪型の巨大化は18070年代にピークを迎え、その後はイギリスの趣味の影響でつばの広い帽子が流行り、髪形はやや小ぶりになったとか。
 マリー・アントワネットは出産後に抜け毛に悩んだそうですが、王妃担当の結髪師レオール・オーティエは、「6、7歳は若く見えるから、、」と王妃を傷つけず、髪を短くしたア・ランファン(こども風)という低いヘアモードを導入したそうです。


★つけぼくろなどが流行したメークアップ

 ロココ時代のメークアップは真珠粉や鉛白などの白粉と、濃い目のほほ紅で白さを強調するものでした。そして、大流行したのが「つけぼくろ」だそうです。
 つけぼくろは古代ローマ時代からすでにあったそうですが、当初はしみや傷を隠すためだったのが、男女や年齢に関係なくお洒落のひとつとして愛用されるようになったのだとか。額の中央のつけぼくろは威厳を表現し、目じりにつけると悩殺的といった具合に付ける場所によって、その意味合いが変わったそうです。また、左ほほにハート型のをつけると婚約中を示し、右側移すと結婚したことを意味しました。
 実際に展示されているマネキン人形の顔を見ると、想像以上に大きいことに少々おどろきました。 (ここに紹介している写真には見かけません) つけぼくろというより、大きな黒いシールといったかんじです。当時は紙や布で星や三日月、馬車、ハート、円などの形に切り抜いてアラビアゴムなどでつけたそうです。
 ロココのお化粧事情は興味深かったのですが、マネキンの顔が全体的に硬くて、あまり魅力的ではなかったのが少し残念でした。

優雅さを演出する扇が必須アイテム

 扇は古くから権威の象徴であったり、華やかさを演出するために高貴な女性の間で愛用されていましたが、16世紀から17世紀には女性の必須アイテムとなり、宮廷や舞踏会などで女性は扇をくゆらせて優雅さをアピールしました。祈祷の時には扇を閉じ、接客の時などにはやや開き、散歩の時には全開にするなどTPOに合わせて使いこなしました。
 今回は30点あまりの扇が展示されましたが、単なる日用品ではなく芸術品としても価値のあるものでした。
 まず、絵柄はパターン化された模様などではなく絵画的なもので、かなり本格的。自然の中で人々が楽しげに語らったり、踊ったりしている図柄が多く見受けられました。扇が中国から伝来したものだからか、当時のシノワズリの影響なのか、中国的な図柄のものも何点かあったのも興味深かったです。
 絵柄と同じくらい見事だったのが、骨の部分の装飾です。象牙に装飾をしているタイプのものがほとんどですが、その細工の細かさに見とれてしまいます。


 こうして、ヴェルサイユという小さくて大きな世界で繰り広げられた王侯貴族たちの贅沢なファッション文化は、1789年に始まったフランス革命によって根底から崩壊していったのでした。


 
 


写真A:写真@の左側に後ろ姿が。        
   

写真B:前姿はこちら      


 ア・ラ・フリゲート・ユノ


アメリカ独立戦争時の英仏の戦いで活躍した軍艦(フリゲート艦ユノ)の模型。

写真C:全身姿はチラシ写真

            ↓写真D

ア・ラ・フリゲート・ユノ
 扇を持った女性
ローヴ・ア・ラ・フランセーズ
    
ドレスの種類あれこれ
ローヴ・ヴァラント

ローヴ・ヴァラント(1730-35年頃)

ローヴ・ルトゥールーセ・ダン・レ・ボッシュ
ローヴ・ルトゥールーセ・ダン
・レ・ボッシュ  (1780年頃)
ローヴ・ア・ラ・ポロネーズ

ローヴ・ア・ラ・ポロネーズ(1775−80年頃)

 
  ★ナポレオン戴冠式の
  大儀礼服を復元


 ロココ時代のドレスの展示室とは別の部屋に、1804年のノートルダム寺院で行なわれたナポレオンの戴冠式で皇后ジョセフィーヌと2人の介添えの夫人が着用した大儀礼服などが展示されていました。格式と威厳に満ちたエンパイア・スタイルは、ロココ時代のものとは異なった豪華さです。
 これらの衣装は、神戸ファッション美術館が実際に大儀礼服を製作したフランスの工房に復元を依頼したものだそうで、実際に復元に使用された金糸などの展示もあったほか、復元作業の様子を自由に閲覧できる写真アルバムで見ることができました。緻密な作業で豪華な儀礼服が再現される様子は興味深かったです。
 右上のジョゼフィーヌの画像は、有名なダヴィットの「皇帝ナポレオンと皇后ジョゼフィーヌの戴冠」をバックにした絵はがきです。この絵にも登場しているジョゼフィーヌの長いガウンの裾を持つラ・ヴァレット夫人とロッシュフルコー夫人の衣装も展示されていました。こちらも金糸の刺繍が見事です。
 なお、今回は展示されなかったナポレオンの衣装示は、絵はがきのみでの鑑賞でした。

 
 
皇后ジョセフィーヌの大儀礼服 (復元)
 皇后ジョセフィーヌの大儀礼服 (復元) 
皇帝ナポレオン1世の大儀礼服 ラ・ヴァレット夫人の大儀礼服
皇帝ナポレオン1世の大儀礼服 (復元) ラ・ヴァレット夫人の大儀礼服 (復元)