「ブレラ」という美術館の名はこの周辺が昔「ブレイラ(野原)」と呼ばれていたことに由来しており、建物は元々は17世紀に創設されたイエズス会の教育施設であった。その後、ロンバルディアを統治していたハプスブルク家の女帝マリア・テレジアがイエズス会を解体し、1776年に美術学校が創設されたことから絵画の収集がスタートした。その後、19世紀初めのナポレオン統治時代の文化政策によりミラノを中心に北イタリアから広く絵画が集められ、コレクションが増大。ナポレオンの40歳の誕生日を祝う形で1809年より一般公開された。その後も、コレクションを充実させて世界有数の美術館の仲間入りを果たし、1992年にブレラ美術学校の付属ギャラリーから独立して市立の美術館となった。
 宮殿風の建物の館内は、回廊を取り巻くように展示室が並んでおり、典雅なアーチと円柱で仕切られている。展示作品は多岐にわたるが、14〜15世紀のヴェネチア派、ロンバルディア派のなど北イタリアを中心にしたルネサンス作品が特に充実している。

ブレラ美術館中庭

ブレラ美術館
Pinacoteca di Brera
美術館入り口
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「死せるキリスト」

「死せるキリスト」
マンティーニャ
1470〜74年頃

15世紀後半にパトヴァで活躍したマンティーニャの代表作。十字架から降ろされたキリストが両足の裏を正面に向けて横たわる姿を短縮遠近法を用いて描写。頭を大きく描くことでキリストの苦悩を鮮明に浮かび上がらせることに成功するとともに、キリストの手足に残る釘の跡や変色した皮膚の細かい描写などで迫力とリアリティを強く感じさせる作品。また、若く美しく描かれるのが普通だった聖母マリアを老婆の姿で描いていることも特筆すべきことである。

※マンティーニャは生涯手元に置いて手放さなかったが、死後に息子に発見され、その後、ルイ14世の手に渡ったこともあり、19世紀になってイタリアに戻ってきた。

「アレキサンドリアで説教する聖マルコ」
ベッリーニ兄弟 
(兄ジェンティーレ・弟ジョバンニ)

ヴェネツィアに大きな工房を構え、父ヤコボの代からヴェネツィア派の中心だったベッリーニ家。ヴェネツィアのサン・マルコ信徒会館のために制作したこの作品は、兄ジェンティーレが76歳でこの作品に着手したが、2年後に他界すると弟のジョバンニが兄の遺言によりこの作品を完成させた。アレクサンドリアの聖エウフェミア聖堂をイメージして描かれたが、実際のモデルはヴェネツィアのサンマルコ寺院である。寺院前のキリンや説教を聞く人々の服装がエキゾチックでイスラムの文化を感じさせる。


「ピエタ」

「ピエタ」
ジョバンニ・ベッリーニ

15世紀後半に活躍したヴェネツェア派の巨匠ジョバンニ・ベッリーニの初期の最高傑作として有名な作品。ベッリーニの姉がマンティーニャと結婚したため2人は義兄弟となった。ベッリーニはマンテーニャの画風から多くを学んだが、キリストや聖母の表情など、この作品は特にマンティーニャの影響が見られる。


「マリアの結婚」
カラパッチオ  1504年頃

聖母マリアを主役にした物語は、14世紀からルネサンス期にかけて好まれた絵画のテーマ。マリア崇拝が盛んだった16世紀の初め、カラパッチオも「マリアの誕生」「マリアの宮詣で」「マリアの結婚」「マリアの死」の4連作を描き、さらに「マリアの訪問」「聖告」を加えた「マリア伝」を完成させ、これらはヴェネツィアのアルバニア人同信会館に飾られていた。同じくブレラに展示されている「マリアの宮詣で」は鏡のように対照的な構図をしている。

「マリアの結婚」 カラパッチオ

「マリアの結婚」
ラファエロ
1504年

イタリア中部の街にあるサン・フランチェスコ聖堂のために描かれた祭壇画で、21歳の時の作品。
 画面手前でマリアに指輪を授けているのが大工のヨセフ。彼が左手に持つ棒の先には百合が咲いており、この奇跡が多くの求婚者の中から選ばれた彼の幸運を示している。遠くに神殿風の建物を描き、遠近法の効果を生かして広い空間を描き出している。

「マリアの結婚」 ラファエロ
「ろうそくの聖母子」

「ろうそくの聖母子」
クリヴェリ

マルケ地方のカメリーノ大聖堂のために製作した多翼祭壇画の中央パネル。画面の下にロウソクが1本置かれているところから、この絵画のタイトルがついた。クリヴェリは15世紀に活躍した画家。


「聖母戴冠と諸聖者」

「聖母戴冠と諸聖者」
ファブリアーノ

1400年頃

流麗な曲線と装飾性を特徴とする国際ゴシック様式の代表的な画家。イタリア中部の街・ファブリアーノの出身で、同地のヴァルレ・ロミータ修道院のために製作した作品。



「サン・マルコの船だまりから波止場の眺望」

「サン・マルコの船だまりから
           波止場の眺望」

カナレット

生地ヴェネツィアをはじめとした都市景観画を得意とした18世紀に活躍した画家・版画家。光や大気の効果を巧みに表現し、写真のような都市の風景画を数多く残した。


「接吻」
アイエツ


フランチェスコ・アイエツは19世紀のロマン主義の画家。ロマンチックな男女の接吻をストレートに描いたこの作品は、1856年にブレラ美術館で最初に展示された時は大変な話題になった。この絵の男女のポーズをモデルにしてイタリアの映画監督ルキノ・ヴィスコンティは、「夏の嵐」のラヴ・シーンの構図を決めたといわれる。

「接吻」

その他の代表的な展示作品
 タイトル 画家 制作年
聖母子 ピエロ・デッラ・フランチェスカ 1472年頃
サン・ルカの祭壇画 マンティーニャ 1454年頃
柱につながれたキリスト ブラマンテ 1480年頃
聖母子 ジョバンニ・ベッリーニ 1510年
リュートを弾く婦人 バルトロメオ 1520年
キリスト降架 ティントレット 1564年頃
聖マルコの奇蹟・聖者の遺骸の発見 ティントレット 1565年頃
天使に支えられる庭園のキリスト ヴェロネーゼ 1580年