宗達・抱一・御舟・観山

琳派から日本画へ
「琳派から日本画へ」

 東京国立博物館で開催された「大琳派展」には連日たくさんの人で賑わいましたが、会期を半分重ねて11月8日から山種美術館で「琳派から日本画へ」という展覧会が開催されました。
 光悦・宗達から酒井抱一、鈴木其一までの琳派を代表する絵師たちの作品を始め、下村観山、菱田春草、速水御舟、荒木十畝など琳派の影響を受けて独自の作風を生み出し、近代絵画の大きな足跡を残した画家たちの興味深い作品が展示されました。



新古今集鹿下絵和歌巻断簡

 「新古今集鹿下絵和歌巻断簡」
 
下絵:俵屋宗達 書:本阿弥光悦

 断簡とは、元は巻物であったものをいくつかに切って掛軸などにしたものをいう。宗達の描いた鹿の下絵と光悦のしたためた西行法師の和歌が見事に融和。宗達+光悦のゴールデンコンビの創り上げた作品はさりげなさの中にも典雅な雰囲気が漂い、しばし魅入ってしまいました。それにしても、光悦は「寛永の三筆」と呼ばれてそうですが、それほどの腕前なのかは素人目には判断つきませんね。 


四季草花下絵和歌短冊帖 桜花 四季草花下絵和歌短冊帖 桜


 「四季草花下絵短冊帖」

 
下絵:俵屋宗達 書:本阿弥光悦

 20枚が6曲の屏風に貼り交ぜられていたもので、宗達が四季の風物を描いた料紙に、光悦が『新古今和歌集』の和歌をしたためています。
 展示スペースの関係で数点が展示されていませんでしたが、20枚のうち16〜7枚ずらっと並べて展示されており、一つ一つに見応えがありました。
 しかし、下絵と文字がちょっとバッティングしてちょっとごちゃごちゃした印象を受けました。下絵があまりにしっかり描かれているので、四季の料紙だけで十分アートとして成り立つように感じました。

左:桜花、右:桜



「飛雪白鷺」 酒井 抱一

 酒井抱一の作品は5作品の展示でしたが、印象に残ったのはこの「白鷺飛雪」と隣に並んでいた「菊小禽」。この2つは元は「十二ヶ月花鳥図」シリーズの中の作品だったようですが、現存しているのは12カ月分すべて揃っていないそうです。
 この「飛雪白鷺」は11月を描いた作品で、秋から冬に向かう季節感がうまく表現されています。上下で対になって向き合う白鷺の構図が素晴らしい作品です。

※他に「月梅」「宇津の山」「秋草」を展示。


四季花鳥・春 四季花鳥・夏 「四季花鳥」  荒木 十畝

この展覧会で、最も色華やかで目を引いたのが、この荒木十畝作の「四季花鳥」の4作でした。ここに紹介したのは2作品(左:春、右:夏)ですが、「秋」と「冬」も同じように素晴らしい作品でした。
 荒木十畝は、幕末に土佐藩御用絵師として活躍した荒木寛畝の婿養子になり、大正から昭和にかけて新しい時代に即した花鳥画を得意とした画家。この「四季花鳥」の4作は光琳を意識したものだと画家自身が述べているそうですが、鮮やかな色彩と繊細な描写は、光琳よりも近代的な江戸琳派の酒井抱一や鈴木其一の花鳥画に通じるものを感じます。
 左の「春」で具体的に琳派の影響とみられる箇所はをあげると、岩の部分のたらし込み表現や群青の水面や緑青の地面、その境界を色取った金泥の線など。
 それまでの日本画の様式を意識しながらも、独自の世界が見事に表現されていて、また何度も実際に目でみて味わってみたいと思わせる素晴らしい作品でした。


  「月四題のうち 秋」 
  
菱田 春草

 月を題材にした四季の4作品が飾られていましたが、特にこの「秋」には惹かれました。
 「朦朧体」という輪郭を描かない新しい技法に挑戦をするなど、横山大観とともに新しい近代絵画を模索した春草ですが、この作品ではぶどうの実や葉には琳派の特徴的な技法である「たらし込み」が使われています。
 大観が自分以上の才能を認めていたという菱田春草は36歳という若さでこの世を去っていますが、「墨だけでこれだけのものを表現するなんて、どれほどの技能の持ち主なんだろう」とあらためて見惚れてしまいました。華やかな荒木十畝作品の近くにあったので、ぱっと見て地味な印象でしたが、じっくり見ると良さがわかってくる秀逸な作品でした。

月四題のうち 秋

※たらし込み
水を含ませて描いた墨が乾く前に、違う濃さの墨を重ねて塗り、そのにじみを巧みに利用して描く技法。

★第2展示室は見応えのある屏風を中心に展示されていました。

四季花鳥図 「四季花鳥図」   鈴木 其一

 右隻に春夏、左隻に秋冬の草花が描かれていて、花鳥画が得意な其一ワールドが展開されています。春と夏、秋と冬という2つの季節のものを混じえて描くというのもちょっと珍しいので、何が描かれているかを一つ一つ確かめながらみると新鮮な味わいがあります。また、草花の間から顔を覗かせている鳥の描写もさすがよく描けています。
 江戸期の作品と思えないほど色彩くっきりですが、江戸琳派の作家たちは質の良い岩絵の具を使っていたため、退色せずに作品が鮮やかに残っているそうです。
※他に「伊勢物語」(高安の女)を展示。


名樹散椿  「名樹散椿」   速水 御舟

 「椿寺」と呼ばれる京都の北野天満宮近くの地蔵院の椿を描いたものですが、この椿は花びらが一枚づつ散る「五色八重散椿」という珍しいもので、御舟が描いた当時は樹齢400年だったそうです。この椿は豊臣秀吉も愛でたというほど昔から有名だったそうですが、現在の椿寺の椿は御舟の描いたものではなく、植え替えられた2代目だとか。
 昭和期の美術作品で初めて重要文化財に指定された作品です。
※他に「桔梗」「白芙蓉」を展示。


 「老松白藤」  下村 観山

 その堂々とした表現と繊細な描写、そしてくっきりと落ち着いた色彩に圧倒され、今回の展示作品の中でも特にインパクトの強さで印象に残っている作品です。なんといっても構図が非常に大胆で、木の全体を描くのではなく上下をカットし、二股に分かれる幹の部分を中心に細枝とそれに絡む藤を描いています。落ち着いた雰囲気の中にも力強さがあり、見ているだけで迫力を感じる作品です。

 下村観山は日本美術院に参加し、岡倉天心のもとで横山大観や菱田春草などとともに新しい近代絵画の創出に功績を残した画家ですが、若い頃に狩野芳崖や橋本雅邦に師事し典雅な狩野派の作風も受けついでいるほか、代表作の一つ「木の間の秋」など酒井抱一や鈴木其一など江戸琳派の作品の影響を受けているとみられる作品を描いてます。

「老松白藤」の部分
※「老松白藤」の部分

その他の画家の展示作品
 伝 俵屋宗達  「槇楓図」
 本阿弥 光甫  「白藤・紅白蓮・夕もみぢ」(三幅対)
 小林 古径  「しゅうさい」
 前田 青邨  「三浦大介」「蓮台寺の松蔭」「大物浦」「須磨」
 奥村 土牛  「庚申春」「戌」「犢」
 福田 平八郎  「筍」「すすき」「桐双雀」「彩秋」
 吉岡 堅二  「春至」
 東山 魁夷  「満ち来る潮」
 加山 又造  「裸婦習作」
★おすすめ 参考文献★



宗達&光悦から光琳&乾山、酒井抱一、
鈴木其一、野々村仁清、渡辺始興、中村芳中、
横山大観、小林古径、下村観山など多数