「大天使」の地位と権力は?
ミカエルは天使たちを束ねる総司令官 !?
※壁紙の天使のイメージは女性だが、大天使ミカエルは精悍な男性天使。大天使ではガブリエルが唯一の女性の天使とされている。





 「天使」という言葉や存在は、あまりにポピュラーなものですが、「天使」とはキリスト教をはじめユダヤ教・イスラム教に登場する「神の使い」を指しています。

 そして、なんと天使には階級があり、9つに分かれています。ミカエルの属する「大天使 」(アークエンジェルス)は元々は天使を統べる最も高貴な存在でしたが、神学の「進化」する過程で徐々に位階を下げ、現在では8番目の階級となっています。しかし、下位の地位にありながらも、「大天使」は最も大きな権威と権力を持つ天使たちとされています。より高位な天使は霊的で非物質的な存在になってしまっていますが、より人間世界に近い存在である「大天使」たちはクラス的には低位あるがゆえに自由に活動ができ、その影響力も絶大なのです。彼らは神の意思を直接聞き、それを実行するために無数の天使達を指揮します。
 
 「大天使」はキリスト教でもユダヤ教でも7人とされていますが、その中で「四大天使」とされている4人の天使は共通しています。神の意思を伝えるとされる「ガブリエル」。病気やケガを癒し、巡礼者など旅人の庇護者である「ラファエル」。天使の最高位「熾天使」も兼ねる「ウリエル」。そして、大天使たちのリーダー的存在であり、すべての天使たちの総司令官のような任務を果たしているのが「ミカエル」です。
  ミカエルは天使の中でも神に最も近い存在として崇拝され、「天使の中の天使」とされています。その名前の意味は「神に似た者」ですが、他にも「神の御前のプリンス」「慈悲の天使」「正義の天使」「聖別の天使」など、様々な称号がつけられています。 

  

天使たちを束ねる大天使ミカエル
  天使たちを束ねる大天使ミカエル



★天使の名前
には「エル(el)」のつくものが多くみられますが、これは「神」を指す言葉です。
 ・ミカエル   「神に似た者」
 ・ガブリエル  「神の英雄」
 ・ラファエル  「神は癒す」
 ・ウリエル   「神の光」

「三大天使とトビアス」

「三大天使とトビアス」ボッテチェリ作。
左からミカエル、ラファエル、トビアス、ガブリエル。

※大天使ラファエルと言葉を交わしている少年トビアスは、旧約聖書外典『トビト書』の中に登場する敬虔なユダヤ人トビトの息子
数々の武勇で知られるほか、
「最後の審判」で天国か地獄かを決めたミカエル
大天使ミカエル
「Fall of the Rebel Angels」 ↑↓
悪魔を追い払うミカエルを題材にした絵画は数多く描かれている。 上はブロンズィーノ作、下はルッソ作で、いずれも16世紀。
大天使ミカエル
「最後の審判」の大天使ミカエル
15世紀のフランドル画家ロヒール・ウェイデンの「最後の審判」の中央部分。キリストの下で人間の魂を量っているミカエルの姿が描かれている。

 ミカエルは、知力だけでなく武勇にも優れた天使として様々な活躍が語り伝えられています。旧約聖書の中の「ダニエル書」の中で、ミカエルはイスラエルの守護天使として登場し、ユダヤ教においてミカエルは重要な存在であり続けました。新約聖書では「ヨハネの黙示録」で悪魔の化身ドラゴンを退治し、新約聖書外典である「モーセの黙示録」ではモーセがシナイ山で十戒受けたとき、十戒を記した石板をモーセに渡したのはミカエルであるとされています。
 また、ミカエルは神に反逆を企てたサタン(悪魔)を退治したことでも知られています。キリスト教ではサタンはルシファーと同一視されていますが、ルシファーは元は大全天使長の地位にあった天使でした。ミカエルとルシファーは元々は双子であったという説もあり、ミカエルが弟であったとされています。ルシファーは自分よりも人間を可愛がる神に不満を持ち反旗を翻すのですが、この戦いにミカエルは勝利し、敗北したルシファーは堕天使として地の底に封じ込められてしまいます。
 このミカエルとルシファーの話は西欧の文学でよく取り上げられ、なかでも17世紀にジョン・ミルトンが書いた壮大な叙事詩が有名です。このミルトンの『失楽園』は、ダンテの『神曲』とともにキリスト教文学の代表作となっています。

 また、神の意思を遂行するミカエルの重要な任務の一つに、死者を冥界に導く役割があり、死者が天国に行けるか、地獄に落ちるか判決を下すのがミカエルとされています。宗教画の題材として好まれた「最後の審判」の中で、キリストの足元に立ち、死者の魂を量りにかけて天国行きか、地獄行きかを決めるミカエルの姿がしばしば描かれています。

 

多くの奇跡を生み出し、
守護聖人として人々の尊敬を集めたミカエル

 その後、ミカエルは聖人の一人としてキリスト教徒の間で広く崇敬されるようになり、中世においてミカエルは兵士の守護者となり、十字軍をはじめキリスト教軍の保護者とされました。
 ミカエルは神の使いとして天と地を往復するとされていたので、ミカエルに捧げられた聖堂の多くが岩山や山頂などに建てられました。フランスで大天使ミカエルのお告げから創設されたモン・サン・ミッシェルは、その代表例です。モン・サン・ミッシェルは英仏の狭間にあり、百年戦争では重要な拠点でしたが、フランスがイギリスとの長い戦乱を乗り切ると、守護聖人として聖ミカエル信仰はますます熱心になり、国内外から多くの巡礼者を集めました。
 また、百年戦争では窮地に陥ったフランスを救ったジャンヌ・ダルクが歴史的に有名ですが、彼女の英雄的行動も大天使ミカエルのお告げによるものとされています。
 その他にも大天使ミカエルは数々の奇跡を起こし、真の「神の使い」として人々の信仰を集め続けました。ヨーロッパを中心に各地にミカエルに捧げられた多くの聖堂や教会が建てられ、大天使の像が飾られました。 守護者としてのイメージから「鞘から抜かれた剣」がミカエルのシンボルとして定着し、ルネサンス期以降のミカエルの絵画や像の多くは、燃える剣を手にした姿で絵画や像に表現されています。

聖ミカエル像
モン・サン・ミッシェル修道院内の教会に1877年から飾られている聖ミカエル像。
聖ミカエル像

教会に飾られた聖ミカエル
(ベルリン)

現在の地球はミカエルの守護期間中!?
中世の歴史思想に「セクンダディ」

 宗教が支配した中世の歴史思想に「セクンダディ」というものがあり、「7人の天使による惑星の支配」を意味しています。それぞれの惑星を司る7天使が神の定めた計画に従って、354年交代で地球を支配し守護するというものです。それによると、現在の地球は、1881年から2235年まで、太陽を司るミカエルの守護する期間に当たっています。
 「セクンダディ」は15世紀頃のオカルト文献に見られる用語であり、いささかマニアックな思想です。

 


ミカエルの名を日本に伝えたのは
宣教師ザビエル


日本に初めてキリスト教を伝えたのは、イエズス会の宣教師フランシスコ・ザビエル。16世紀半ばに来日しましたザビエルが、大天使ミカエルに日本の守護を祈願したことから、日本にもミカエルの名前が浸透していきました。

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