ゲントの有力貴族だったヨース・ヴェイトの依頼により、兄ヒューベルト・ファン・エイクが作品に着手。兄の死により、弟のヤンが作品を引継ぎ、1432年に完成させたと言われます。
この素晴らしい三連祭壇画はヴェイトにより寄進され、現在はゲントの聖バーフ教会に展示されていますが、その間、この祭壇画には様々な運命が待ち受けていました。
★祭壇画の数奇な運命
神聖ローマ帝国の皇帝となったカール5世に続いてこの地域を支配したハプスブルク家のフェリペ2世は、この作品を自分の所有物にしようと画策しましたが、この地の新教徒はスペイン支配への抵抗の証として、この「神秘の子羊」を焼き捨てようとしたそうです。フランドルを含むネーデルランド全域で、スペインへの独立運動の気運が高まっていた、、、そんな時代のことでした。 また、ナポレオン支配時代には祭壇画がゲントの街からパリへと持ち去られ、無事ゲントに戻ってきたのはナポレオンが廃位となった1815年だそうです。
さらに苦難は続きます。ベルリンで行なわれた展覧会ではパネルが何枚か盗まれ、1920年に復元。そして、なんと1934年には左下の「正しき裁き人たち」が盗まれ、その部分は今も複製画で代用しているのだとか。 また、第二次世界大戦中には、ナチス・ドイツの占領軍が祭壇画を持ち去ってオーストリアの塩抗に隠していましたが、1945年にアメリカ軍により発見されたそうです。そんな運命を経てきた祭壇ですが、今は盗難防止のためか、ガラスケースに覆われて展示されています。
★1つ1つ興味深い24枚の絵で構成
祭壇画は観音開きになっていて、内側と外側合わせて24枚の絵から構成されています。登場している人物は248人にものぼりますが、驚くべきことにその顔にはシワまで緻密に描かれており、ディティールまで緻密に描く初期フランドル絵画の特徴がよく表れている作品といえます。また、豪華を極める衣装と宝石類の色彩も非常に鮮やかで、目を引きます。
扉を開くと12枚の絵が現れ、「子羊の礼拝」が中央下部に位置しています。上段には聖母マリアやキリスト、アダムとイブ、聖ヨハネなどが描かれており、祭壇画の扉を閉じると「受胎告知」や預言者たちの絵が見られます。絵1枚1枚に様々な意味が込められており、音声ガイドを聞くとさらに興味深く、奥の深いキリスト教世界を堪能することができます。この絵画には当時の神秘思想が色濃く反映されており、中世の理想を絵画化したものと見られているそうです。
▼扉を開いたところ
▼扉を閉じたところ
聖バーフ大聖堂の脇に立つファン・エイク兄弟の銅像 |
★フランドル美術の最高傑作★ |
ファン・エイク兄弟作/聖バーフ大聖堂 (ゲント) 「神秘の子羊」 |